庄原土産やお酒を販売&まさかのイベント開催も!? マルチな本屋「ウィー東城店」の魅力に迫る
長靴やろうそくなど、日用品をそろえる“よろず屋”として明治期に創業した、神石高原町の「総商さとう本店」。その後、本やCD、文具などを取り扱う2号店として誕生したのが、庄原市東城町の「ウィー東城店」です。
本屋のみならず、美容院や化粧品売場、エステルーム、コインランドリーなどの機能を持つ店は、地域の人にとってなくてはならない場所。近年では、佐藤さんが選りすぐった食品やお酒販売もスタートしました。さらにはイベント開催やオリジナルブックカバーの用意など、ほかでは見られない独自の取り組みも。
観光客が訪れても楽しい「ウィー東城店」の魅力を、四代目代表取締役である佐藤友則(さとう・ とものり)さんに伺いました。
東城ICすぐ!本だけじゃないマルチなお店「ウィー東城店」
「ウィー東城店」があるのは、東城ICから車で約3分ほどの場所。広い駐車場には、奥にコインランドリー、その隣には鶏卵の自動販売機(現在は使用中止)も見えます。メインとなる本屋の両サイドは、向かって右側が美容院、左側にパン屋があり、いろいろな楽しみ方ができそうです。
東城町ならではの“ご当地本”やイチオシ雑貨に出合える
メインの本売場には、絵本、参考書、趣味の雑誌や専門書、小説などがずらり。一般的な本屋とそう変わらないラインアップですが、とくに力を入れているのが、地域やふるさとにまつわるもの。「郷土の歴史って、これまでも紙で伝わってきたと思うんです。紡がれてきた言葉や知恵を、広く次代に残せていければと思います」と、佐藤さん。
取材時にひときわ目を引いたのが、東城町の郷土料理研究家・小林富子さんによる『足(あしゅう)を高(たこ)う上げて歩きんさい ひばん婆お富の足跡』。なんと小林さん、人気漫画『美味しんぼ』にも登場したことのある有名人で、ワニ料理を広めた第一人者なのだとか。右頁から読むと小林さんの自伝に、左頁から読むと料理本になっていて、読み応えたっぷり。小林さんの英知が詰まった一冊です。
ちなみに「ウィー東城店」では、オリジナルブックカバーの用意も。東城町出身の日本画家、矢吹沙織(やぶき・さおり)さんがデザインしたもので、全3種類。つなげると一枚の絵柄になるこちらは、2014年の「書皮(ブックカバー)大賞」で賞を受賞したそうです。
東城の町並みが繊細に描かれたカバーは、読書家でなくともコンプリートしたくなる素敵さ…!本の購入価格にかかわらず、小説やハードカバー本の購入時につけてもらうことができるので、ぜひお願いしてみてはいかがでしょうか。
さらに佐藤さんが選び抜いた、暮らしに豊かさをプラスする食品や地元作家のクラフト雑貨コーナーも。老舗のお酢屋「後藤商店」のビネガーやぽん酢、「吉岡香辛料研究所」の一味唐辛子など、地元由来のものが勢ぞろい。
ここ最近の佐藤さんのイチオシは、府中市上下町「小倉園」の「特むし茶」。農薬などの使用を低減した、県内で生産される安心安全な農作物にだけ認められる「安心!広島ブランド」の認証を受けている、特別な茶葉です。
厳しい寒さに耐えて甘みを増したお茶は、渋みが少なく豊かな香り。これまで数度にわたって販売しているそうですが、毎回すぐに完売するとのこと。見かけたら、迷わずゲットしておきましょう。
時期によって商品の入れ替わりがありますが、この時並べてあった雑貨は地元作家の手作り木工品。使い勝手の良さそうな、愛らしいフォルムのトレー、スプーンなどが並びます。自分用にも、お土産にも良さそう。
2025年4月からはお酒の取り扱いがスタート
2025年4月からは、なんとお酒の取り扱いも!レジ横に構えたお酒コーナーには、東城町「北村醸造場」の「菊文明」、神石高原町「三輪酒造」の「神雷」など、近隣エリアを中心にした日本酒がそろいます。さらにワインコーナーもあり、ソムリエである吉川直子(きっかわ・なおこ)さんがセレクトした、地元のワインショップ「大澤田(おぞた)葡萄酒店」の厳選ワインがいろいろ。
実はお酒の取り扱いがスタートしたきっかけは、佐藤さんの実弟である佐藤日出夫(さとう ・ひでお)さんが、「三輪酒造」の蔵人を務めるようになったことに端を発しています。佐藤さん兄弟の実家であり、「ウィー東城店」の1号店である「総商さとう本店」は、「三輪酒造」のご近所さん。そのことが縁で、お酒の仕込みが忙しい時期のみ、蔵人としてお手伝いに行っているのだそうです。
日出夫さんは生まれつき舌が繊細で、微妙な味の違いがわかるタイプ。「ウィー東城店」に並ぶ日本酒も、日出夫さんみずからの舌で選び抜いたものばかり。普段は書店員として店に勤務していることもあるので、お酒選びに迷ったら、ぜひ日出夫さんに相談してみてください。
加えて「ウィー東城店」では、本屋ではまず見ない「角打ち」のイベントも開催!過去数回開いており、毎回楽しみに訪れるリピーターもいるのだそうです。今後は寒い時期に向けて、燗酒も用意するそうですよ。
ふらりと立ち寄って一杯嗜み、お気に入りの本に目を通す… そんな至福の時間が味わえそうです。
美容院やエステを併設、佐藤さんとスタッフの人柄も人気の理由
こちらの本屋を佐藤さんが継いだのは2000年のこと。名古屋の本屋で修業中だった佐藤さんのもとに、高齢になった先代から、「店の状況が良くないので手伝ってもらえないか」と打診があったそうです。
戻ってすぐに佐藤さんが始めたのは、「まずはお客様の信頼を取り戻すこと」。小さなことでもサポートしていきたいと、赤ちゃん連れのお母さんに「お子さんを抱っこしておくので、ゆっくり本を選んでください」と声をかけたり、ぐずっている小さな子を見かければ、すすんで読み聞かせなどをしていたそうです。
あたたかな佐藤さんの人柄のおかげか、少しずつお客が戻ってくるようになり、気軽な会話も弾むようになってきました。「美容院があると嬉しいんだけど」「コインランドリーがあったら便利」「エステを受けられたら最高」と、皆が“あったらうれしいもの”を口々に教えてくれるようになったそうです。
お客の要望を耳にした佐藤さんは、“よろず屋”の本領を発揮し、次々と住民の希望を叶えてきました。まずは、かつて大阪で腕利き美容師として活躍していた佐藤さんの奥さんが、美容室「ラ プティット クレ」をオープン。
さらには需要の高かったコインランドリー、もともとあった化粧品売場の奥にはエステルームを設け、専門スタッフの施術が受けられるように進化させていきました。店がどんどんと充実してくるにつれて客足ものび、苦しかった経営は、いつのまにか見事に回復を果たしていたそうです。
「ウィー東城店」の魅力は、店舗の充実度のみならず、佐藤さん本人とスタッフのユニークさ、人柄にもあります。
実はスタッフのなかにはかなりのベテラン書店員も在籍していて、人気作家である早見和真(はやみ・かずまさ)さんと親交があるのだとか。早見さんといえば、「中国新聞」で連載している『かなしきデブねこちゃん』や、日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』の原作者!そんな実力派作家と親しい書店員さんがいるだなんて、これはもう、話を聞かずにはいられません(笑)。
ほかにも、佐藤さん自身が声をかけ、地元で学校に馴染めない子やひきこもりの若者を積極的に採用。過疎地である東城町で、新たな雇用も生んでいます。
【2024年】西本町に「ほなび」がオープン!憩いの場にも
2024年には、大きな転機もありました。それは3号店である庄原市の本屋「ほなび」をオープンさせたこと。まちから本屋が消えていくという現代において、庄原市においても2軒立て続けに古くからの書店が閉業。「本屋がないと困る」という地域住民の声を受け、佐藤さんが総商さとうの3号店として「ほなび」を開くにいたったのです。
クリニックや不動産屋が軒を連ねる複合商業施設の一角にある「ほなび」は、時には地域住民の憩いの場に、また、近隣にある学校帰りの学生さんが足を運ぶ立ち寄りスポットにもなっています。店内の片隅にはテーブル&チェアを設け、ほっと安らげる空間づくりにも配慮しています。
こちらでも、佐藤さんがこれまで掲げてきた“お客様ファースト”の姿勢が随所に感じられます。現在は、地域の大人たちから子どもたちへ、「大切な本を読み継いでほしい」という思いで「本、贈り」プロジェクトが進行中。おすすめの一冊のレビューと共に大人たちが寄付を行い、そのレビューを参考にして「これ、読みたい」と思った子どもたち(対象は高校生以下)が申し込みをして、集まった寄付金で希望のあった本を購入してプレゼントするという取り組みです。
これからの進化が楽しみな「ほなび」もまた、「ウィー東城店」と同じく、皆の心のよりどころのような本屋になっていくに違いありません。
【ウィー東城店】
住所:庄原市東城町川東1348-1
電話番号:08477-2-1188
営業時間:10:00~19:00
定休日:年中無休
駐車場:あり(30台)
【ほなび】
住所:庄原市西本町2-12-10
電話番号:0824-73-9366
営業時間:9:30~19:00
定休日:火曜
駐車場:あり(共用駐車場)