生熊酒造

硬度100の広島酒
輪郭を感じさせる硬派な味わいの「超超群」とは!?

庄原市の東城町はかつての城下町。岡山県新見に向かう備中新見路と福山へ向かう東城路が交差する交通の要衝で、物資の集散地でもあり、宿場町としても栄えました。1865年(慶応元年)に創業したここ、生熊酒造はにぎやかな時代の東城町を知る数少ない老舗蔵の一つです。
 そして広島県内では唯一、硬水仕込みの酒を造る蔵です。

なんと、その硬度は100。

広島で辛口の酒といえば生熊酒造の「超群」をおいて他にありません。


早速「超群」を試飲カップでカンパイ

【「大和屋酒舗」の大山晴彦社長(左)と生熊酒造八代目、生熊敏幸社長(右)】

実は名前もラベルも同じなので分かりにくいのですが、「超群」にはいくつかのタイプがあるのです。

【見た目は同じ、味わいは大きく異なる「超群」について説明】
【見た目は同じ、味わいは大きく異なる「超群」について説明】

 
 一つは今年仕込んだ単年度の酒だけを瓶詰したもの、
もう一つは、昨年仕込んだ酒をブレンドして一定の味に仕上げたものです。
アルコール度数も少し違いますが見た目は同じ。
 しかしその味わい、酒質は、全く異なるそうです。
 この二種は、今のところ同じ店では売っていることはないので、お客さまが迷うということはないと思いますが・・・。

 ここで大山社長から良い提案がありました!
「僕ね、以前から『超群』っていう名前はすごくイイと思っていたんですよ。

だから今年仕込み限定のタイプは『超超群』っていう名前にしたらどうかと思うんですよ」

早速、シールを貼ってみましょう。

  • 【「超」の部分を丸く切り取って・・・】

  • 【「超超群」! どうですか!?】

「いいですね!」と生熊社長。

「それにしても『超群』は、本当に良い名前ですね。『抜群』のさらに上をいくイメージ!(笑)。」

この「超群」が誕生したのは昭和元年。連山の中でひときわそびえる富士山のように、また群鶏の中の一鶴のように、酒造界に秀でることを念願して名付けられたそうです。
ラベルは現社長のおじい様の代からだそうですが、当時にしてはものすごく斬新なデザインのラベルだったんじゃないでしょうか。字体も描かれた鳳凰もカッコいいですよね。

他にも酒米の違うタイプもあります。八反錦を使った「超群」と千本錦を使った「超群」です。千本錦は、広島県独自に育成した酒米で、八反錦とは違った新しい味わい。まろやかで上品、且つ硬水仕込みならではの後切れの良さを感じさせます。

【硬水仕込みならではの輪郭を感じさせる硬派な味わい、と大山社長】
【硬水仕込みならではの輪郭を感じさせる硬派な味わい、と大山社長】

「それにしても硬度100というのはすごいですね。広島県内で珍しいのでは?」

「カルスト地形で知られる『帝釈峡』が近いからですね。」

「帝釈峡」は広島県を代表する景勝地です。全長18㎞にもなる狭谷がここ東城町と神石高原町にまたがっています。これを形成する大地は石灰岩。水に溶解しやすい性質をもっており、長い年月を経て雨水や地下水などによって浸食、溶食され、「雄橋(おんばし)」のような天然の架け橋や多くの鍾乳洞を形成しました。
 生熊酒造は、蔵から車で数分のところにある山水を汲みにいき、それを仕込み水に使っています。まさに庄原、東城の大地が育んだ酒と言えるでしょう。
「日本酒は、一升瓶のうちほぼ80%が水ですからね。米よりも圧倒的な影響力があります。」

【「超群」と同じ硬派な!? 生熊社長。本蔵の杜氏でもある】
【「超群」と同じ硬派な!? 生熊社長。本蔵の杜氏でもある】

「超群」にとって、この東城の水から離れることはできませんが、何せ創業が江戸時代という老舗蔵です。老朽化が進み、さすがに蔵は移転しました。これまでの東城の古い町並みの中にある伝統的な佇まいの建物もそのまま店舗として残してあります。

「移転してからの酒造りは順調?」
「酒造りのための道具はほとんど持ってきましたが・・・ まだ慣れないですね。」

生熊酒造では蔵の見学も受け付けています。

麹室や仕込み室など見ることができました。この庄原、東城の酒造りの歴史を感じることができます。
「この瓶がまだあるんですね」

大山社長が手にしたのは、「超群」の文字が入った小さな徳利瓶。かつて、地元の人の多くは、この小瓶に入った酒を買い求めていました。この瓶を徳利代わりに、瓶のまま温めて燗酒(かんしゅ)にできる便利さが人気の理由。最近は燗酒にして飲む人が少なくなり、この小瓶が出回る機会も減りました。

日本酒には、温度を変えて味わうという楽しみ方があります。焼酎のように水かお湯か、割るもので温度を変えるのではなく、酒そのものの温度を変えることで味わいを変化させます。温めて飲む燗酒には、30℃の「日向燗」、35℃の「人肌燗」など、上は55℃の「飛びきり燗」まで。下は冷酒で5℃の「雪冷え」、10℃の「花冷え」といった具合に、5℃間隔の温度に全て名前が付いています。こうした温度の変化で楽しみ方が広がる酒というのは、世界でも類を見ない、日本酒ならではの文化なのだそう。

温度による味わいの違いを感じながら酒をたしなむなんて、日本酒をあまり深く知らない人は外ではやりにくいと思います。でも家ならどう飲んでも自由です! 家で「超群」の一番好きな飲み方を見つけてほしいですね。

店頭で見た「超群」のカッコいい、硬派なラベルのイメージが蔵見学の後には、すっかり変わっていました。広島県では珍しい「硬水仕込みの酒」、それは計算されたものではありませんでした。

庄原の、東城の天然資源をそのまま使っただけ、ただそれだけの自然味あふれる優しい酒だったのです。

店舗情報

店名 生熊酒造株式会社
住所 広島県庄原市東城町川西887番地1
電話番号 08477-2-0056
ホームページ http://ikumashuzo.com/

取材・文/平山友美

未成年の飲酒は、法律で禁じられています。