庄原そば

一寸そば屋

「幻のそば屋」と呼ばれて30余年
一寸そば屋のそばは今、何センチになったのか!?

 “庄原で一番早くそば打ちを始めた”のがここ、一木(ひとつぎ)の「一寸そば屋」です。一木は、早くから地域の人が協力し合って農業を営む集落営農に取り組んできました。

【代表の吉光典子さん。とっても優しい笑顔に癒されます!】 ※撮影時のみ、マスクを外しています。

「もう40年ほど前になるかしらね、転作作物でソバを作ったらどうかっていう話があってね。」
お話をうかがったのは、「一寸そば屋」の代表、吉光典子さん。

でもソバは収量が少なく、米の十分の一程度しかない、それなら付加価値をつけて、そばを打って提供したらいいんじゃないかということになりました。最初はイベントに出店してそばを出す程度でしたが、遂にそば屋を開業。1989年(平成元)のことでした。

「店をやるって言ったは良いがね、そばなんて打ったことがない。最初はうどんみたいに鉢を抱え込んで打ったりとかね、豊平にそば打ちを習いに行ったりね・・・」

 そば打ちは初めての経験だった吉光さん。見よう見まねで打ったそばは、「麺」と呼ぶにはほど遠い、ブツブツと3㎝程度に切れたものだったそう。
 これを見た当時の農業改良普及所の指導員さんに

「この一木のそばは一寸しかない、『一寸そば』じゃね。」

そう言って笑われたけれど、「一木の一寸そば」と「一」が並ぶのは語呂が良い。店の名前は「一寸そば屋」になりました。
 こうした経緯があってのそば屋です。今でもソバの実を栽培するところから始まります。収穫して、製粉してそば粉にする、そしてそばを打ってお客さまに提供する…… 早、30余年が経ちました。
 「飲食店で30年続くのは、もう老舗ですよって言ってもらいましたよ(笑)。」
 そうです、スゴイことですよ!
それに、ここで育てているソバの実は、一木町の在来種。殻の色が茶色っぽくて、粒が大きめです。当初は信州系のソバも育ててみたけれど、やっぱり一木の気候には合わなかったそう。在来種は気候には合いますが、簡単なわけではありません。植物は、自然交配してしまうこともあるので、在来の特徴を守りながら何年も種を継いでいくことはとても難しいことなのです。

 それができているのも地域の人のおかげだという吉光さん。早速、そのおそばをいただいてみました。
 まずは、個数限定の「ざるそば定食」。

【おにぎりとちょっとした付き出しが付いた定食が人気】

【ツルツルっと、いくらでも食べてしまいそう!】

 こちら「割子そば」も不動の人気。注目していただきたいのは、そばの太さ。ざるそばに比べて少し太めに切ってあります。

【割子そば。比べてみると、ざるそばとは違った味わい】

【かけそばとおにぎり。自家製の梅干し入りのおにぎりも握り方が絶妙でお米が美味しい!】

「不思議~! 同じそばなのに、どうしてこんなに味が違うんですか?」 と、驚くお客さま。

ざる、割子、かけそばと3つしかないそばですが、それぞれ太さを変えて切るのです。

 
 普通は3つを食べ比べるということがないから、多くの方はお気付きにならないと思います。でもね、全く違うんですよ!!
 そばは、湯がいたあと、冷水で締めます。この工程は同じですが、ざるそばは細い分、冷水にさらしたときに早く温度が下がるので、芯の方までキュッと引き締まります。
 一方の割子はやや太め。だから同じように冷水で締めても、ざるそばとは温度の下がり方が異なるのです。

【厨房で注文が入ったら、手早くゆがいて水気を切る】

 この「一寸そば屋」は、12月20日から28日までの年末と4月29日から5月5日のゴールデンウイーク、盆休み、9月中旬頃からのソバの花が咲くシーズンは毎日営業していますが、それ以外は、土日と祝日しかやっていません。

週末だけ営業なので「幻の店」という声も。

 営業日には10名ほどのメンバーが交代で店に出ています。平均年齢は70歳! 
「つい最近まで、80歳過ぎたおばあちゃんも手伝ってくれてました。平均年齢の高さにみんなでビックリしたんだけどね。」

【「みんなここで働くのが『楽しい』って言ってくれる、私も楽しい! 生きがいよね。」】

「ところで、二八そばですよね?」と聞くと
「そう、基本は二八そばです。時々間違えて十割になっちゃうことがあるけれど(笑)。」
二八は、そば粉8割に対して小麦粉が2割入るそばのことで、黄金比率といわれます。そば粉が7割になると、途端にそばの味が弱くなってしまう、そばの味がしっかりして且つ、つながりやすいのが二八の割合なのです。
 「少し前にね、『一寸そば』を作ってくれっていうお客さまがいらっしゃったことがあって。十割そばにしたら一寸になるんじゃないかと思って、やってみたんだけど、今は、十割でもつながるのよ。昔みたいにブツブツ切れた一寸そばはもうできない(笑)。包丁で一寸に切らない限り、十割で打ってもちゃんとつながります!」
 昔を知る人からは「ほぉ、ちゃんとつながるようになったじゃないの!」と言われることも。それは成長を見守ってくれている証しですね。

 色んな想いを持った人が集まって、30年、40年と地域のことに取り組み続けられるというのは、なかなかできることではありません。
「メンバーにも恵まれたと思います。地域の人がみんな、自分のことのように手伝ってくれたから。だから続けてこられた。」と言う吉光さん。
 思えば近所の比婆牛ハンバーグの店「すけあくろう」も一木の市場で野菜を調達するっていうお話を聞きました。庄原市内の同じそば屋「そばなかや」はこの一木町のそば粉に惚れこんでいました。
 一寸の長さしかしかなかったものが長くつながったのは、そばだけではありません。町の人の「絆」もまた長く、強くつながってきたのです。
「最近、冷蔵庫を新しく買ったからね、あれが壊れるまでは頑張らなくちゃね。」
 素敵な一寸そば屋の物語。「地域で生きること」の強さを教えてもらったような気がしました。

店舗情報

店名 一寸そば屋
住所 広島県庄原市一木町533
電話番号 090-4577-8314(営業日のみ)
営業時間 10:30~17:00
定休日 月~金曜日、年末年始 
※備考もご確認ください。 
備考 12月20日から28日までの年末と4月29日から5月5日のゴールデンウイーク、盆休み、9月中旬頃からのソバの花が咲くシーズンは毎日営業

取材・文/平山友美