チーズ・バター・ジェラート

ふくふく牧場

自然と牛と人間が共存する牧場の
世界でいちばん、安心が感じられる幸福チーズ

「ここ、広島県ですか!?」

【ふくふく牧場の牛は山を自由に歩き、自ら草を探す】

はい、広島県の庄原市口和町にある「ふくふく牧場」です。
牧場といっても、山そのものです。

【急斜面でも藪の中でもおかまいなし。これが本来の牛の姿】

【シンプルで何の主張もないチーズに見えて、実は……】

 本当はね、ここで庄原産のチーズを紹介したかったんですよ。
こちら「ふくふく牧場」の手作りチーズです。
「ふくふくマスカルポーネ」「ふくふくリコッタ」「ふくふく★さけチー★」などなど。
 皿の上にある球状のものは、セミドライタイプのモッツァレラ、編んだ形状のは「三つ編みチーズ」。
 でもね、チーズだけ並べられても、すぐに食べてみたくなるような珍しいチーズはなさそうでしょう?
だから最初に「ふくふくチーズ」誕生までの物語を聞いてもらいたいのです。

 そもそも、チーズは何からできているか、知っていますか?

牛のお乳…… 正解です。ではそのお乳は何でできている?
 牛の血液です。人間も同じです。赤ちゃんが飲むお乳は、お母さんの血液から作られます。だからお母さんが食べるものはとっても大事。そして血液の流れが滞ることがないように、リラックスできる環境、ゆっくり過ごす時間も大切です。
 そして忘れがちなことですが、人間でも牛でもお乳が出るのは、出産してからしばらくの間だけ。人間の場合は、ひとたび授乳をやめてしまうと、もうお乳は出なくなってしまいます。不思議なことに、赤ちゃんが飲み続ける間だけしかお乳は作られないのです。
 お乳が出るのはほんのわずかな期間だけ。そのはずなのに、どうして乳牛は毎日たくさんのお乳を出し続けることができるのでしょうか?
 それは毎日たくさんのお乳が出るように品種改良したり、飼料を与えたり、たくさんの乳牛を飼って常に搾乳できる牛が一定数確保できるように、計画的に出産をさせたりしているからです。
 可愛そうだと思いますか? でも私たち人間のためです。人間の食料を作り出すために牛は飼われているのです。
 だから私たちは、牛に感謝して牛乳を飲んだりチーズを食べたりするように、教えられてきました。そのことに間違いはありません。いつも「牛さん、ありがとう」という気持ちで食べたいですね。

【小さな牧場の小さな工房「ふくふくチーズ工房」にて】

 でもそれだけじゃない、「牛と共存する生き方」もあるんじゃないか……
そう考えて、本当に牛と共存する人生を歩み始めた人がいました。
 それが「ふくふく牧場」の福元紀生さん、この人です。
福元さんは、庄原市口和町の山でジャージー牛を完全放牧、その牛のお乳でチーズを作っています。とれたお乳からできる量しか作りません。牛はわずか5頭だけ。そのうち、搾乳できる(お乳が出る)牛はたった3頭です。3頭から取れるお乳の量は、少ないときは8リットル程度。一般的な乳牛(ホルスタイン種)だと、1頭だけで20~30リットル取れるそうなので、かなり少ないといえます。

【少量ずつ、丁寧に作られるふくふくチーズ工房のチーズ】


 チーズ作りにおいては、量が少ない方が難しいこともあります。攪拌がうまくできなかったり、発酵時間がかかってしまったり。それでも牛を育て、乳を搾り、わずかな量でもチーズを作り続けるその原動力は一体、どこからくるのでしょう?

 福元さんの酪農の原点は、あるとき目にした「モンゴルの草原」の映像。画面の向こうに広がる大自然の風景に「癒されるな~」と思ったそうです。そこに出てきたテロップに目が留まりました。

「家畜と人間は何千年も前から共存してきました」

 牛は本来、人間が食料にしない草を食べて生きられる動物です。牛は、人間には不要の草を食べることで、牛乳やチーズといった人間に必要な食べ物を作り出してくれる生き物なのだ! これに気付いた福元さんは、自然と生き物と人間とが共存する世界で生きたいと考えるようになりました。
 酪農家になろうと決めて、いざ牧場で働き始めると、思い描いていた酪農とはかけ離れたものでした。大草原で草を食べ、のびのびと育っていると思っていた牛たちは、牛舎につながれたまま。牧草を食べるどころか、穀物の入った輸入飼料を与えられていたのです。
 それは考え方によっては、ごく当たり前のこと。家畜は人間が食べていくために存在しているのだから。でも福元さんの目指す「共存」ではなかった…… もちろん、お乳から牛乳やチーズを作ったら、それを売って生活をしていかなければなりません。酪農家は、ペットとして牛を飼うわけではないのですから。

【(※注)山歩きではありません。牧場内を歩いて牛を探しに出たところ】

「食べ物を作るからには、食べてくれる人との距離が近いことが必要なんじゃないかって思ったんです。」

作る人と食べる人とが交流の場をもち、牛と人間とが良い関係性を築けるようにしよう。東京都八王子でまさにこれを実現している牧場がありました。それまでも同じ広島県内の牧場でお世話になったり、北海道でチーズ作りを教わったりしました。一時は福島県で山を借りて放牧を始めたりと、色んな経験を積んできました。同じ酪農家と家族の支えがあって、このふくふく牧場が誕生したのです。

【牛たちを「つくし」、「こごみ」、「よもぎ」という名前で呼ぶ】

 春から秋は放牧地で青草を食べるので乳量も多い、冬は干し草を食べるので乳量が減ります。だからゴールデンウイーク辺りだと、チーズがたくさんできているかもしれません。

 ふくふく牧場の牛、品種は全てジャージー種。
「本当はね、『ブラウンスイス』の方が甘みのある乳が出るし、チーズにしても美味しいって言われているんです。でも僕は太陽が降り注ぐ大地に生える草を食べて牛が育ち、お乳ができる……これを実現したかった。放牧牛には足腰がしっかりしてて、自分でエサを見つけて生きることができるたくましさが必要なんです。」

【面白いことにいつも集団行動。リーダーを先頭に並んで移動する。牛舎に帰るところ】

美味しさも大事。乳牛たるもの、乳量も大事。でも自然の中で共に生きてくれることの方がもっと大事! そう福元さんは言ったのです。

「子どもたちに安心して食べさせられるチーズを作りたいし、作り続けたい。」

福元さん、私はあなたの言葉だから信じます。この牧場とあの牛たちを見たらふくふくチーズの中に嘘や偽りなど、入り込む余地はありませんよ。

シンプルで何の主張もないように見えたチーズ、ひと口食べるたびにあの牛のあどけない顔が思い出されました。食べ手として、これほど作り手を近くに感じられたことはありません。

店名 ふくふく牧場
住所 広島県庄原市口和町湯木1390
電話番号 0824-87-2195
営業時間 10:00~16:00
定休日 水曜日・第1土曜日
ホームページ http://fukufuku-farm.com

取材・文/平山友美